グリーフケア士の行動指針(ガイドライン)

実際の場面におけるグリーフケアとは、悲嘆経験に際し、安心・安全な場(アジール)を提供して、社会的な常識から一時解放され、自分自身の感情を、自分のペースで十分に表現し、反芻し、味わい、悲嘆感情との付き合い方を身につける機会を提供することが基本です。
そのため、まず、身近なコミュニティ、文化的・宗教的に公認されている儀礼等を提供し、大切にされるべき悲嘆者であることを共通の理解とするとともに、儀礼化され社会から保障された「場」の中で、自由に悲嘆経験を表現し、味わえるようにすることが大切です。
悲嘆は、予期悲嘆という形で悲嘆の出来事に先立って起こることもあります。
出来事の直後の儀礼に加え、多くの文化では、長い年月をかけて悲嘆感情を持ち続けること、もしくはその感情を改めて想起することを促す儀礼を大切にしています。そこでも、儀礼の最大の目的は、悲嘆経験の定形化(型にはめること)では決してなく、自由な悲嘆経験を味わう「場」や「機会」の確保です。

グリーフケア士の第1の責任

グリーフケア士の第1の責任は、社会的に承認された資格の権威を正しく利用して、悲嘆経験を味わう「場」や「機会」を確保し保持し、悲嘆者の悲嘆する権利を守ることです。
グリーフケアは、一般社会の常識に関わらず、悲嘆感情を自分のペースで十分に味わうことを基礎とするため、悲嘆状態であることを「裁かない」、悲嘆感情を経験している人を、そのケアの場から「排除しない」、という原則が大切です。
グリーフやケアについての諸理論は、その、確保された「場」や「機会」のなかで起こることについて理解しようとする努力の成果です。
しかし、悲嘆は個別の感情経験であり、一般化して理解できる部分に加え、故人との個別的で具体的な経験に基づくものであり、また悲嘆者の人格や個性に関わるものであるゆえに、一般化や理論ではたどり着けない領域を多く含んでいます。
グリーフケアは、それゆえ、悲嘆者の長期にわたる心の変化を前提にした関わりとなります。

グリーフケア士の第2の責任

このようなグリーフの意味合いを理解した上でグリーフの過程を安全にたどれるようにすることがグリーフケア士の第二の責任です。その際、次のようなことに留意する必要があります。

1. グリーフは、悲嘆経験をされた方の自然な心のプロセスであることを理解し、対等な尊厳ある人格として向き合うこと。
2. グリーフは、経験科学によって一般化できる過程に加えて、個人史を形作る経験と深く関わるため、極めて個性的な過程を経ることを尊重すること。また、ケアの中でその具体的な語りを伺う機会があるため、守秘義務の尊重が極めて重要です。相手が安心できるならば守秘義務について文書として誓約書を作ることもひとつの方法です。
3. グリーフは、悲嘆者の社会的な活動性を抑え、実際的感情的な脆弱性(vulnerability傷つきやすい状態に陥ること)を招く可能性があるため、そのことが悲嘆者の不利益にならないように配慮することが大切です。同じ理由で、ケア者が不当に影響を与えやすい状況にあることを深く自覚する必要があります。また「二重関係の回避」も重要です。二重関係とは、「専門的な関係以外の私的な関係があること」と定義されます。セラピストやカウンセラー等、心を扱う職業においては、クライエントとこうした関係をもつことを回避する必要があります。

困った時のために

悲嘆者が深刻なグリーフから抜け出せない場合、たとえば自死をほのめかしたり、あまりにも抑うつ状態がひどい場合などは、専門的な支援へつなげる必要があります。
状態によって、遺族会・家族会、NPOやボランティアなどの支援団体、公的・医療的な支援につなげることが大切です。そのために身近にどのような支援団体があり、窓口があるのかといった情報を事前に知っておくことが重要です。以下のような窓口が考えられます。これらはインターネットで簡単に調べられます。また、各都道府県・また指定都市には「精神保健福祉センター」が設置されています。

公的機関(厚生労働省、各都道府県レベルの情報)
〇精神保健福祉センター
まずは地域の精神保健福祉センターへ
〇電話相談窓口
こころの健康相談統一ダイヤル

医療機関・支援団体等の情報
〇がん患者遺族の場合→遺族外来、遺族ケア、グリーフケア外来
がん拠点病院、総合病院
〇周産期遺族の場合→周産期グリーフケア外来
総合病院、クリニック
〇こどもを亡くした遺族の場合→支援団体、遺族会
〇自死遺族の場合→いのちの電話支援団体、遺族会



[資格監修]上智大学グリーフケア研究所

グリーフケアの必要性の高まりを受けて、2009年4月に日本で初めてグリーフケアを専門とした教育機関として設立。2010年4月からは上智大学に移管され、グリーフケアにかかる研究とグリーフケア、スピリチュアルケアに携わる人材の養成を通して、日本におけるグリーフケアの理解・啓発を行い、グリーフを抱える「悲嘆者」がケアされる健全な社会の構築に貢献する事を目的に研究教育活動を行っている。


<制度運営>

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