グリーフケアは、本来、冠婚葬祭業における営みの根幹をなすものであり、社会的責任を伴う実践である。
有資格者ならびに資格取得を目指す者は、本綱領の理念を理解し、遵守する義務を負うとともに、グリーフケアのより良い実践に向けて不断の努力を重ねなければならない。
第 1 条 無償性の原則
① 本質的営みにおける無償性の原則
グリーフケアは、冠婚葬祭業における本来的かつ不可分の営みであり、葬儀におけるグリーフケアの提供は、対価や料金を伴う付加的•追加的サービスとして取り扱われてはならない。
② 営利的誤解の防止
また、グリーフケアが別途有料サービスであるかのような誤解を生じさせる表現•説明•対応にも、十分な注意を払わなければならない。
③ 葬儀以外におけるケア提供の柔軟性
ただし、葬儀の施行時とは直接関係しない社会的サービスとしてのグリーフケアの提供については、この限りではない。
第 2 条 人権と個人の尊厳の尊重
① 個人の尊厳の尊重
グリーフケア士は、ケア対象者の人権および個人としての尊厳を尊重し、不当な扱いや心理的圧迫を与えないよう配慮しなければならない。
② 差別の禁止
グリーフケア士は、ケア対象者に対して、人種、民族、出自、言語、文化、国籍、性別、年齢、婚姻歴、貧困、障がい、疾病、性的指向、信仰や信条などいかなる理由によっても差別してはならない。
第 3 条 悲嘆者への倫理的配慮
① 悲嘆する権利の尊重グリーフケア士は、悲嘆者が自らの悲嘆を自由に経験し、それを語る「場」や「機会」を確保•保持するよう努め、その悲嘆する権利を守らなければならない。
② 価値観•モデルの押しつけの禁止
グリーフケア士は、悲嘆のプロセスを機械的に段階化して判断したり、自身の信仰や価値観を押しつけたりしてはならない。
③ 非評価的•非排除的態度
グリーフケア士は、悲嘆者の感情や状態を裁いたり、悲嘆感情を理由にケアの場から排除したりしてはならない。また、悲嘆者が感情的に脆弱な状態にある可能性を理解し、不利益や二次的な傷つきを招かないよう配慮しなければならない。
④ 安全な関係の維持と守秘義務
グリーフケア士は、ケアの中で知り得た悲嘆者のプライバシー情報を適切に保持•管理しなければならない。守秘義務は、法令により解除される場合を除き、原則として保持されるべきものである。
第 4 条 ケア対象者•関係者との関係
① 多重関係の回避
グリーフケア士は、ケア対象者との私的な関係を回避しなければならない。ケア対象者およびその関係者との関係において、転移や依存や搾取等の関係が生じ得ることに留意し、私的で親密な関係を結ばない。
② 支配的関係の禁止
グリーフケア士は、ケア対象者およびその関係者に対し、支配的な立場となってはならず、また、支配的な力を行使してはならない。
③ ケア対象者との適切な距離感
グリーフケア士は、ケア対象者へのケアにあたり、公共空間において開かれたケアを心がける。密室での面接や、身体接触、過度の自己開示、個人的通信、会食、金品の貸し借り等をしてはならない。ケア対象者または第三者の誤解を招くことがないよう努める。
第 5 条 死生観の尊重
① 死生観•宗教観の多様性の尊重
グリーフケア士は、ケア対象者およびその家族•関係者の死生観•宗教観• 霊的価値観の多様性を理解し、これを尊重しなければならない。
② 中立的姿勢の原則
ケア提供にあたっては、自身の死生観や宗教観を押しつけたり、対象者の信仰•無宗教•儀式の有無等を評価•判断するような言動を行ってはならない。
③ 文化的背景の理解と専門的連携
悲嘆の意味づけや癒しのプロセスにおいては、対象者固有の文化的•宗教的背景が重要な役割を果たすことを理解し、必要に応じて宗教者やスピリチュアルケア従事者と連携する。
第 6 条 傾聴に基づくケアの原則
① 傾聴の基本姿勢
グリーフケア士は、傾聴を基盤としたケアを悲嘆者に提供するものである。傾聴においては、相手の感情の動きに深く耳を傾け、共感と敬意をもって関わらなければならない。
② 感情の流れへの感受性
また、傾聴の過程においては、相手の感情だけでなく、自己の感情の微細な変化にも注意を払いながら関わる姿勢が求められる。
③ 非侵襲的な関り
つらい体験について、詳細に聞き出すことを目的とした質問や、詰問•叱責など、悲嘆者の心を追い詰めるような関わりは避けなければならない。
④ 沈黙の尊重
グリーフケア士は、悲嘆者の沈黙を尊重し、無理に言葉を引き出そうとせず、その沈黙の背後にある思いや感情に寄り添おうと努めなければならない。
⑤ 語りのペースへの配慮
グリーフケア士は、ケア対象者の語りを評価•解釈•助言へと急ぐことなく、相手の語るペースやタイミングを尊重し、そのまま聴く姿勢を大切にしなければならない。
⑥ 自己認識と内省
グリーフケア士は、傾聴の過程において生じるグリーフケア士自身の感情や反応に気づき、それらをケアの文脈でどのように扱うかを自覚的に判断しなければならない。必要に応じてスーパービジョン等を活用することが望ましい。
第 7 条 生育歴への理解と配慮
① 生育歴と悲嘆反応への理解
グリーフケア士は、ケア対象者の生育歴や過去の経験が、現在の悲嘆の表現や感情の揺れに影響を与える可能性があることを理解し、それに配慮した対応を心がけなければならない。
② 非評価的•受容的態度ケア対象者の語る生育歴について、評価や否定的判断を避け、ありのままを 受け止め、尊重する態度をもって関わらなければならない。
③ 複雑な背景への連携対応
過去の生育環境やトラウマ的経験が、現在の悲嘆や困難を複雑化させている場合には、必要に応じて心理的•医療的支援への連携を検討する。
第 8 条 自己の限界の認識と向上義務― 専門性の自覚、連携、自己研鑽とセルフケア ―
① 専門性と限界の自覚
グリーフケア士は、自己のケアの専門的能力と限界をよく認識し、その範囲内でケアを提供する。
② 役割の明確化と誤解の防止
グリーフケア士は、傾聴を中心とする非医療的なケアを提供するものであ り、身体的•精神的医療ケアや宗教的ケアと混同してはならない。また、ケア対象者やその関係者に誤解を与えるような言動を慎まなければならない。
③ 適切な支援への橋渡し
グリーフケア士は、悲嘆者が深刻なグリーフの状態にあると判断される場合には、速やかに医療機関や行政等の専門的支援機関へと繋げるべきかどうか検討しなければならない。
④ 継続的な自己研鑽
グリーフケア士は、ケア対象者の利益と自らのケア力向上のため、絶えず自己研鑽に努める。
⑤ 仲間との協働と専門性の共有
グリーフケア士は、有資格者•関係者と共に相互研鑽に努め、ケア対象者の利益のため互いに連携し支え合う。
⑥ セルフケアと持続可能な実践
グリーフケア士は、職務に伴うストレスやバーンアウトのリスクを認識し、持続可能な実践を行うためにセルフケアを怠らないよう努めなければならない。
倫理綱領の遵守の義務について
当財団が認定するグリーフケア士は、当財団が定めるグリーフケア資格認定制度規則、同細則、倫理綱領などの各規程の遵守及びその他
の関係法令を遵守する義務があります。資格認定者の活動における高度の基準を維持するとともにグリーフケアに対する社会的信頼の向
上のためには、資格認定者全員に規則に則った行動をしていただく必要があります。
それでも諸規則に違反した事例が発生した場合に備え、当財団は、グリーフケア士に対し、懲戒処分又は改善勧告を行うために必要な事項
を盛り込んだ懲戒規程を定めております。
その主な手順は、懲戒処分や改善勧告の処分に係る申立てがあった場合、又は懲戒処分や改善勧告の事由があると理事会が判断する場
合に、①理事会は倫理委員会に調査を付託し、②倫理委員会は被申立人に書面通知の上、調査を行います。③倫理委員会は調査の結果
を答申し④理事会は処分内容の決定を行います。処分の決定内容は、申立人と被申立人に財団より通知いたします。
懲戒処分や改善勧告といった処分が行われることがないよう、グリーフケアの活動の際には、倫理綱領を尊重し、その精神を遵守してくだ
さい。
上級グリーフケア士の受験者は、受験にあたり、倫理綱領の遵守について誓約したものとみなします。
目次
(グリーフケア士資格・上級グリーフケア士資格共通)
<制度運営>
一般財団法人 冠婚葬祭文化振興財団
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