2017(平成29)年度(第19回)2.鹿児島家族療法研究会

〇テーマ:

婚姻儀礼におけるコミュニケーションと結婚後の夫婦関係との関連に関する研究

〇概要:

現代社会では、新婚期の夫婦ルール再編成に際し、婚姻儀礼をめぐるカップル間のコミュニケーションの役割がより増大していると予想される。そこで本研究では、おもに婚姻儀礼をめぐり生じうる夫婦間の問題への葛藤対処方略(コミュニケーション)と、新婚期以降の夫婦関係満足度との関連について、インターネットを用いた調査を行った。

〇実施内容:
平成31年1月~2月
結婚後5年目~10年目の30~39歳、披露宴・挙式をともに行った女性を対象とし、インターネット調査のマクロミルに調査を依頼した。
質問項目Ⅰ
結婚に関する質問項目
婚姻までの交際形態(結婚時の妊娠の有無や同棲経験、交際期間等)
質問項目Ⅱ
心理尺度
①結婚式に関する意思決定場面(7場面を設定、結果2の④)での
葛藤方略
「互いに気まずい状況をできるだけ避けた(回避)」「夫との中間の立場を提示した(妥協)」「夫の意見を聞いて、自分の考えや意見は伏せた(譲歩)」「自分の意見が正しいと強く主張した(主張)」「自分の考えを先に言い、夫の意見を聞いた(協調)」のコミュニケーションのうち、どの葛藤対処方略を用いたか答えてもらった。
②現在の夫婦関係満足度(6項目)
質問項目Ⅲ
モニター登録時の回答項目
年齢・居住都道府県・職業・子どもの有無・世帯年収・個人年収
〇事業の効果:

最終的に515人のデータが収集された。平均年齢は、34.3歳であった。

結果1

結婚に関する質問項目:
結婚時の妊娠の有無について、「はい」9.3%。同棲経験のある回答者は、35.1%。結納の実施について、「はい」28.3%、北海道では回答者全員が結納を行わないなど地域差が見られた。結婚式の形式は、キリスト教式(51.5%)、人前式(29.5%)神前式(17.5%)その他(1.6%)。披露宴、披露パーティ式場に払った金額は、最も多いのが301~400万円(30.7%)、続いて201~300万円(22.7%)、101~200万円(18.4%)順であった。
結果2
夫婦関係満足度を規定する要因:
①婚姻儀礼にかけた金額
401~500万円かけた人の夫婦関係満足度が最も高かった。ただ、単純にかけた金額と夫婦関係満足度とが相関するわけではなく、続いて満足度が高いのは、100万円以下の人たちであった。
②婚姻儀礼の形式
全体的には、結婚式の形式と夫婦関係満足度全体との関連は認められなかった。ただ、夫婦満足度の下位項目「夫との関係によって、私は幸福である」「私は、夫婦関係のあらゆるものを思い浮かべると、幸福だと思う」において、それぞれ神前式より人前式の夫婦関係満足度が高かった。
③世帯年収と個人年収
紐づけデータの世帯年収・個人年収と夫婦満足度との関連を検討したところ、世帯年収が高いほど夫婦満足度が高くなっていった。一方、個人年収は、夫婦満足度への明確な影響は認められなかった。
④婚姻儀礼に関する問題の有無や葛藤方略
1.「式や披露宴をするかどうか」では、「問題があった」148人の対象方略のうち、最も多かったのが「妥協(51.4%)」、続いて「回避(16.9%)」であった。対処方略ごとの夫婦満足度の比較では、妻の「譲歩」の夫婦関係満足度が低く、婚姻儀礼の夫側主導での実施は、後の夫婦関係において必ずしも肯定的には働かない可能性が示唆された。2.「式の形式をどのようにするかで食い違いがあった」では、「問題がなかった」が86.6%と多く、問題有無や対処方略の夫婦満足度への影響も確認されなかった。3.「式や披露宴の流れで食い違いがあった」では、「問題があった」136人の対処方略で最も多かったのが「妥協(47.8%)」続いて「回避(21.3%)」であった。また、「回避」方略は夫婦満足度が低い傾向があった。式や披露宴の流れでの食い違いの事態で互いに気まずさを避ける「回避」は、率直なコミュニケーションを避ける方略であり、夫婦関係にネガティブな影響を与える可能性も考えられる。

4.「式や披露宴にかける金額や規模について食い違いがあった」では、「問題があった」145人の対処方略で最も多かったのが「妥協(39.3%)」「回避(30.3%)」だったが、最も夫婦満足度が低い方略は、「譲歩」であった。婚姻儀礼での金額や規模は、葛藤も生じやすい話題で「妥協」「回避」方略が選択されたと考えられるが、それ以上に「譲歩」の夫婦満足度が低かった。金銭問題もからむ問題で妻が一方的に身をひき問題の存在を夫に認識させづらい「譲歩」方略は、夫婦関係にネガティブな影響を与える可能性も考えられる。一方「協調」の夫婦満足度は「問題はなかった」とさほど変わらず高かった。

5.「式や披露宴に誰を呼ぶかで食い違いがあった」では、「問題があった」125人の対処方略で最も多かったのが「妥協(36.0%)」続いて「回避(26.4%)」であった。夫婦満足度の有意差は認められなかったが、「譲歩」「主張」は低く、「協調」「問題はなかった」が高いという多項目と類似の傾向がみられた。

6.「相手が式や披露宴の準備に無関心で話が進んでいかないことがあった」では、「問題があった」190人の対処方略で最も多かったのが「回避(29.5%)」続いて「主張(23.7%)」であり、夫婦満足度は「回避」が低くなっていた。本場面での「回避」は、夫が問題認識をせず妻が我慢している状況であり、この我慢のコミュニケーションパターンは、後の夫婦関係とも関連している可能性が考えられる。

7.「式や披露宴の準備で自分だけに負担がかかってると感じたことがあった」では、「問題があった」216人の対処方略で最も多かったのが「回避(30.1%)」続いて「妥協(25.5%)」であった。夫婦満足度は、「問題がなかった」が、「妥協」「譲歩」「主張」よりも夫婦満足度が高かった。この項目は、「問題がなかった(57.9%)」の割合が最も低く、4割以上の対象者が問題を感じていた。

本研究では、結婚生活における良好な夫婦関係を予測する要因として、婚姻儀礼に着目し検討した。結婚式に関する動向はおおむね先行研究と同様だったが、とくに本研究では、結婚式における意思決定の問題の有無や葛藤方略が、新婚期以降の夫婦関係とも関連している可能性が示唆された。
葛藤方略のコミュニケーションとしては、問題があったとしても、自分と相手の考えをそれぞれ言い合う「協調」は、問題がない場合とさほど夫婦満足度は変わらなかった。しかし、気まずい状況を避ける「回避」や、自分の考えや意見を伏せる「譲歩」といった方略では、夫婦関係満足度が低い傾向がみられた。
すなわち、妻が結婚式時の意思決定で気まずい状況を避けたり、自分の考えや意見を伏せたりといった不満をため込むコミュニケーションは、後の夫婦関係とも関連していると考えられる。
ただ、夫婦関係に関しては本研究でみられた世帯年収等環境因の影響も少なくない。婚姻儀礼の機能や夫婦間のコミュニケーションが、良好な夫婦関係にどの程度影響因となりうるかは、今後もさらなる検討が必要と考えられる。