2023(令和5)年度(第25回)8.白井 千晶(静岡大学 教授)

○研究テーマ

『共同体における若者宿の歴史と現状に関する調査研究:三重、愛知、静岡の島嶼部・沿岸部を中心に』

○事業内容

冠婚葬祭の冠にあたるが、かつて日本には、おおむね15歳で成人すると、若者が集団となって組織を作る若者組があった。共同体における年齢階梯集団の一段階である。若者が集まって寝泊りする「若者宿」も各地で存在した。三重県答志島には、日本では唯一現在でも、若者が15歳になると「寝屋親」のもとで「寝屋子」として親子関係を構築し、寝屋子同士の擬制きょうだい関係(朋輩)を構築する慣習が残っている。事前の調査や資料収集では、同じ伊勢湾の愛知県の日間賀島・篠島にも、寝泊りをしないものの、擬制きょうだい関係(朋輩)が現存することがわかり、静岡県では昭和期に存在したことが分かった。年配のインフォーマントからヒアリングができる今だからこそ、研究費を得て調査を実施する。

現地インタビュー調査を実施した。
調査期間:2024/5/27~2024/5/28:愛知県南知多町役場および篠島
調査期間:2024/6/16~2024/6/16:三重県鳥羽市今浦町
調査期間:2024/10/11~2024/10/14:愛知県篠島、日間賀島、名古屋市内
調査期間:2025/2/13~2025/2/16:三重県鳥羽市答志島
調査期間:2025/3/11~2025/3/14:三重県鳥羽市答志島
図書・複写により資料収集をおこなった。特に静岡県の慣行については、資料収集を中心に実施した。

○事業者のコメント(事業実施により得られた効果)

三重県鳥羽市答志島においては、寝屋子制度が鳥羽市の無形民俗文化財に指定されており著名であるが、寝屋親を同じくする「朋輩」という擬似きょうだい集団が年齢集団となって、生涯の関係性を作っていく。青年期には、青年団を形成するが、地域社会における青年団の位置づけについて、祭礼の視察を通じて確認することができた。
愛知県日間賀島、篠島では、「宿」はなくなっているが、「朋輩」は現在もあることが確認され、インタビュー調査を実施することができたのは、大変貴重であった。今後、学会発表や論文等にまとめ、成果を公開していきたい。
これら答志島、日間賀島、篠島において調査を進めたところ、厄年などの年齢慣行のありようや地域社会における位置づけが異なっていること、婚姻慣行など他の慣行との関連が示唆された。今後、さらに研究を進めるとともに、成果を公開していきたい。
三重県鳥羽市今浦町で聞き取りをおこなった、女子の慣行、「カネツケゴ」については、収集した資料とともに、論文にまとめ、公開した。(本助成について明記している。)
白井 千晶2025「世界の擬制親子と鳥羽市今浦の「カネツケゴ」の現在」『人文論集』20,p.17-28
オープンアクセス https://doi.org/10.14945/0002001423